書評:ウォール街のランダム・ウォーカー
5/20読了。長年積んでいた本を2〜3週間かけて少しずつ読み進めた。持っているのは第10版だったが、第11版の出版が2016年なので少なくとも7年以上は積んでいたことになる。
この本はどうなのだろうか?
マルキール教授の主張は概ね以下の通りと読み取った。
- 株式市場において全ての材料はほぼ瞬時に株価に織り込まれるため、裁定余地はない(=ファンダメンタルズ投資の優位性否定)
- 過去のチャートから未来のチャートを予測すること(少なくとも手数料に打ち勝って利益を出すこと)は不可能(=テクニカルの否定)
- 過去の投資信託やファンドの成績を見ても、市場平均を「継続して」上回るものは極めて限定的であり、どの投信やファンドがこれから市場平均をアウトパフォームするかを推し量るのは不可能
- 上記を踏まえると、短期的に取引するのではなく、株価は長期的に見れば成長するため、時間・銘柄・地域を分散してインデックス投資するのが良い。そうすれば少なくとも市場平均利回りを享受できる。
上記主張は概念的には理解できるものの、一部納得できない部分も含まれている。
ファンダメンタルズの否定については、材料が瞬時に株価に織り込まれる際に、例えばそれが好材料であれば株を買い上げる主体がいて、その主体は利益を上げている。それに特化した主体の年間成績は市場平均を上回れないのだろうか?少なくともクリプト市場であれば年10%程度の利益に留まらないことは間違いない。
テクニカルの否定については、クリプト市場で出来高、OI、FRやレバレッジ水準を見ていれば、今後の需給を高い精度で予測できるポイントがしばしば訪れることについて説明できているだろうか?チャート分析以上にテクニカルは広がりを見せている。
3点目については、この本が個人投資家向けであることを考えれば、個人投資家が投資できる投資信託やファンドの成績をベースに分析されているものと考えられるが、他方で、ヘッジファンドや個人投資家は、より自由な投資方針で運用を行えるため、投信と比べて市場に対して柔軟な対応ができ、中には市場平均を上回る成績を上げ続けている投資家も相当数いるものと思っている。
4点目の、株式は企業が利益を上げる限り原理的に上昇し続ける資産だという点は論を待たない。パッシブな投資家がポートフォリオにインデックスを入れることに異論はない。問題は、アクティブ投資で市場平均以上の成績を出し続けている投資家が、インデックスを入れるべきかどうかだろう。これについては、市場平均以上の成績を今後も出し続けられ自信がある投資家にはインデックスは不要であろう。他方、自分の実力に自信がない投資家がリスク分散目的でインデックス投資をすることは悪いことではない。積立NISAなどは税制も有利である。
ちなみに、以下の点については非常に参考になったため、今後の投資方針を考える上で検討を加えた方が良さそうであった。
- 長期で見るとリスクに応じたリターンが実現するため、ボラの高い小型株の方が安定している大型株よりも利回りが高い傾向にある
- 残存寿命に応じてリスク許容度・選考度が変わってくるため、ポートフォリオは年齢によって見直すべし(株は少なくとも20年以上のスパンで利回りを見るべし
また、訳者の井出氏による後書きは本論の要点を極めて簡潔にまとめたものになっているため、本論を読む前に読むのが良いかもしれない(もしくは後書きだけ読んでもある程度本書の内容を理解できるため、購入を迷うようであれば後書きを読んで決めるのがいいかもしれない)。
以上